2017年10月5日木曜日

秋晴れ、そして「この世界の片隅に」を観て  Le beau temps automnal et le film " Dans un recoin de ce monde "


この2、3日、パリは晴天が続いています。
今朝はうす曇ですが、午後から18度前後になる予報で、パリで18度というと、軽装する人々も多くいます。私も昨日、外出するのにダウンジャケットを羽織ったのですが、夕方からの気温の上昇で汗をかきました。体温調節を上手にする必要をいつも感じます。

さて、ここはご存知ソルボンヌの正面前広場です。
黄葉した木々も、次々と落ち葉を落として、すっかり秋の景色となっています。

しかしこのサン・ミッシェル大通りも、かなり様変わりしています。
カルチエ・ラタンの名にふさわしく、名門校が軒を連ねているとはいえ、以前本屋だったところが、洋服や靴を売るブティックになって驚きます。夫曰く、「今は本はみんなネット注文するようになってしまったんだよね。本屋はアマゾンに勝てなかったんだね。」ということらしいです。

もちろん、Gibert (ジベール)などの老舗の本屋でがんばっているところもありますが、かなり古くから経営している本屋や出版社が店仕舞いしてしまっています。時代の流れとはいえ、カルチエ・ラタンがファッションのお店ばかりになっては悲しいですね。

映画館の入り口のポスター。第一次世界大戦当時のもの。

ここは、そんな様変わりしつつある、サン・ミッシェル大通りから1本入った小道 (rue Cujas) に面した、小さな映画館です。小さいながらも、味のある映画を上映するところで知られていますが、私と夫は日本のアニメ、「この世界の片隅に」を観ました。

上映前、人がポツポツとしかいなかったのが、始まる頃には劇場が満杯になるぐらい人が入りました。アニメということで、子供連れの家族もちらほらいました。

映画のことを書く以上、感想を述べなくてはなりませんが、実は私たちは映画を観るのがかなり久しぶりだったということもあって、パリで映画、しかも日本の映画を観る楽しみ、というのを久しぶりに堪能しました。「こんなところで笑うのか」というのがとても楽しく、自分たち日本人が受けるところで全く受けない、というのも面白いですね。

ストーリーとしては、戦争ものを描いているとはいえ、反戦ではない、というところがミソらしいですが、なるほど、広島の原爆も、呉市から経験するということで、直接ではないですね。最後に被爆したお母さんと女の子が出てきますが、それも、その子を養女にすることで、悲惨よりも希望として描かれています。
私は正直、主人公のほのぼのとした感じに、最初は馴染めず、苛立つものを感じてしまったのですが、一歩引いて考えると、こんな感じで日々を過ごしていた当時の女性たちは多かったのではないか、とも思えます。目の前のことに一生懸命で、でもどこか肝心なところが少し抜けているような。この主人公のすずは、実は過激なことを描くのが目的の中にあって、その緩衝材になっているのかもしれません。


そもそもこのアニメは、過激なものを描くことで知られている監督のものだそうで、なるほど、主人公を通して全体としてはほんわかとした描写とはいえ、繰り返し登場する爆撃の場面は迫力満点、観る者を圧倒します。こういうのを観ていると、「日本人って、表面上は真面目で大人しく振舞っているけれど、実は過激な人種なのでは?」と思ってしまいます。

反戦を描かずとして、では作者は何を訴えたかったのか?
映画の終わりの方で、玉音放送を聴いた主人公は、ついにその仮面(?)をかなぐり捨てて激高するわけですが、そこでは「国家の暴力」についてだけ触れているのであって、決して戦争自体についての批判を唱えるわけではありません。むしろ当時の、「一億総玉砕」を叫び、その思想に完全に染まってしまっています。そもそもの戦争の悲惨を嘆いているわけではありません。それは当時、そうしたところまで思い至ることのできた一般市民はごく僅かだったという意味で、リアルを描いたということで間違いではないでのしょう。

しかし、観ている者としては、今の時代に、わざわざこの映画を上映することの意味を考えざるをえません。作者は一体何を伝えたかったのか?ただ当時のリアルを描きたかっただけなのでしょうか?

やはり私は、この映画は反戦、否、厭戦を訴えたかったのでは、と思います。
主人公のおすずちゃんのような、ほのぼのした生き方をしていては、こんな目に遭いますよ、政治や国の言うなりになると、こういう目に遭いますよ、という警告を発しているのではないかと思います。
今、日本は戦争も辞さない勢いで国が動かされているように見えます。そして戦争は、起こそうとする人間たちには命の保証があるもので、むしけらのように死んでいくのは皆、一般市民です。人間が人間を殺す。そんな戦争を決して美化してはいけない、と、この映画を観て思いを新たにしました。

このところ、イスラムによるテロに限らず、狂気による暴力が世界中で日常化しつつあります。
そのことに、もっと意識を向けるべきです。のほほんと生きているわけには、もう行かない世界なのです。

パリでは、メトロに乗っていても、何となく皆の警戒心のような、ピリピリしたものを感じます。
それに乗じたいたずらも、メトロ構内では頻発していまです。こんな世界に誰がした?と呟いてみたところで、人々は皆、日常生活を営んでいかなくてはなりません。せめて、一体何が問題なのか、どうしたら良い世界になれるのか、常に問題意識をもって日々送りたいものです。自分のことだけ、自分に関わることだけ考えていれば良い世界ではない、ということを肝に銘じたいと思っています。

Parc des Buttes-Chaumont ビュット・ショーモン公園

 







0 件のコメント:

コメントを投稿