2018年6月16日土曜日

感想文など  Après avoir lu des livres...

そろそろ終わりになるとはいえ、牡丹 Pivoine の季節です。
中国原産の花とはいえ、その大らかで華やかな様子は、まるで西洋の王女様のようです。まさに「百花の王」の別名にふさわしい風情です。でもこのような艶やかさを、「西洋的」と思ってしまうのはなぜなんでしょうか。不思議といえば不思議だし、小さい頃からの刷り込みといえばそれまでですが、それって時には無視できないほど大きいと思うことがあります。

さて、ブログの更新速度が緩慢になっていますが、理由は二つ。
「本当に書きたいことを書くわけにいかない」という縛りがあることが一つ。
もう一つは現実的に左肩から来る痛みで、編み物はおろか、キーボードを打つのが苦痛ということが挙げられます。今は、昨日の温湿布が効いているので、なんとか打っています。

でも「本当に書きたいこと」が別にあるだなんて、考えてみれば思わせぶりですが、いずれ時を見て、ですね。少し書くと、私は何において人と連帯したいのか、ということです。私の原点です。とはいえ、今までブログを読んでくださっている方は、多少、気づかれるところがあるかもしれません...

Saint Paul の教会
肩が痛い間に、Kindleで本をあれこれ読んでいたのですが、
ちょっと感想を書くには時期を逸していると思われる本、稲垣えみ子さんの『魂の退社』(電子版発行日2016年6月23日)と、『寂しい生活』(電子版発行日2017年6月29日)を読んだので、それについて触れたいと思います。

彼女は1965年生まれで、1才しか違わないことで、同じ時代の空気を生きてきた女性として気になっていました。私たちが子供の頃の、70年代と80年代は、まさに日本は高度経済成長の真っ只中で、「いい学校に入って、いい会社に入れれば、あるいは三高の男性をゲットして結婚すれば、人生安泰」と、誰もが信じられた時代でした。私も少なくとも19才で母を亡くすまでは、そうした王道を歩んでいました。
稲垣さんは、その王道を、私のようなひどい挫折をすることなしに、突き進みました。一橋大学から、朝日新聞の本社勤務、その勤めを28年間成し遂げた後に、あの2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに、アフロヘアにして退職します。

上記の本は、二冊とも、その経緯とその後の生活を綴っているわけですが、その節電生活の徹底ぶりが、その奇抜なアフロヘアと相まって注目を浴びたのだと思います。
日本では、断捨離がブームになってから久しいですし、生活をミニマリズムにしていくことも、巷では普通のことになっていますが、彼女の場合は、それに加えて月150円 ! という尋常では到達できないレベルの節電生活が話題となっています。
個人的には、「そこまでやるか?」と引いてしまうところがあるとはいえ、さすが大手の記者を勤め上げた記者魂ですね、とことん追求している姿勢と、全く気取りのない文体で、あっという間に読み上げてしまいました。
主婦レベルで考えられる、ちょっとした節電から始めて、「そもそも電気というものが存在しない」という世界まで行ってしまいます。テレビやオーディオ、電子レンジなどの家電製品もすべてなくしてしまいます。最後まで残った冷蔵庫をやめる件は、読んでいてハラハラしました。よくぞそこまで ! 読みながら乗り移った彼女の分身が、快哉を叫んでいました。

ただ、ひとたび読了して落ち着いてみると、全く別の視点と疑問が浮かびました。
そこまで彼女が徹底できたのも、独り身、ということがとても大きいのではないか、と。それだけでなく、介護が必要な身内からも自由、ご自身にも持病らしきものもない。全くの恵まれた自由の身です。
本のレビューにもありましたが、それらの自由に加えて、いくら退職後は無職になったとはいえ、退職金の多さ、それプラス自分を実験台にして、こうして本を書いたりマスメディアにも登場したりと「一般人」からしたら恵まれた環境での挑戦なわけです。
原発には基本的には反対だけれど、電気を必要としているお年寄りや入院生活を送っているような、弱者からの視点に欠けているのではないか? そうした疑問も沸きました。

Réamur Sébastopol 界隈
ともあれ、私自身も、何かをする場合に極めたくなる性格というのを振り返ってみると、彼女がしていることは、あながち無駄、と一笑に付すことでもないと思いますし、それはそれで人々に、少なくとも節電を通して、「生きていく上で本当に必要なものって何だろう?」と、根本命題を考える一つのきっかけとなったのではないか。そういった意味で、一読をお薦めします。

更に付け加えると、会社を辞めた後の顛末から、いかに日本が「会社社会」であるか、会社に正社員として就職している人にいかに有利にできている国かを暴露し、昨今の「働き方改革」なる政策が、いかに絵に描いた餅かを突きつけていることも面白いと思いました。
Place de la Nation
また別の見方をすると、人生をかけるほどに夢中になれること、熱中できることがあるって素晴らしい、とも思います。
最近、自分なりに、「人の役に立ちたい」あるいは「社会に貢献したい」ということは、もちろん大切だけれども、それプラス、「自分が心から楽しめること、夢中になれること」を見つけたいと思っています。両者が噛み合えば最高なんでしょうけれど...